第1章-新顔-

梁の間からアルバはそっとマタタビ猫たちの様子を見た。
マタタビ猫は神社の入り口辺りまで追ってきたが、辺りを見渡すだけ見渡すと諦めた。
匂いでばれそうなものなのに…とアルバは少し思ったが、マタタビ猫たちのマタタビの匂いがきつかったことを思い出した。
「べーっ!あのマタタビ野郎、ざまぁ見ろ!次も絶対捕まんないからな!」
梁の上から悔しがっている彼らを見降ろしていた優越感からアルバは少々偉そうになっていた。
そんなアルバが、すぐ後ろの先客がいようとは気付くよしもなかった。
「ネズミのようにこそこそしている奴が言うセリフじゃねえな」
いきなりの声にアルバは心臓が悲鳴を上げた。
「…ッ!!?フニャッ!!!」
あまりに慌てすぎて、梁から落ちかける。
それを見て、声の主から少し息が漏れた。笑っているようだった。
「笑ったなぁっ!!ってあんたは…っ!!」
梁から落ちないよう必死だった当初は声の主がわからなかったが、梁の上にうまく登ることができ、
余裕ができたアルバが見たそれは、まぎれもなく赤い猫だった。
「ん?なんだお前。どっかで会ったか?」
赤い猫はアルバを見る。
その猫の毛よりも赤い、まるで血石のような瞳に吸い込まれそうだとアルバは思った。
後ろから声をかけられた時も心臓が掴まれそうな気分になったが、瞳を見つめているときはそれとは違うものの
心臓がそのままもっていかれそうな気分になった。
「あ…の…」
アルバは言葉が詰まった。それを赤い猫は鬱陶しそうに聞いた。
「…ん?」
「あんたっ!さっきの集会の時にいただろ」
やっと言えた、とアルバは言ってから少し満足した。
「あー、あの面倒なやつか…。いたけどそれが?」
赤い猫はさも面倒だとばかりに欠伸し、後ろ足で耳の後ろを掻いた。
そんないい加減な様子に少しイラつきながらもアルバは聞きたかったことを聞く。
「あんたさ、ボスの座を狙ってるのか?」
その言葉を聞くなり赤い猫の動きがふと止まった。
掻いていた時の気持ち良さそうに閉じていた瞳がふと開く。
その瞳は相変わらず赤い。瞳がこちらを見つめる。
赤い猫のその威圧感にアルバは自然と震えそうになったがしっかりと梁に足をつけ踏ん張った。
しばらく見つめるように見ていた瞳が、ふと逸れる。
そして…赤い猫は鼻で笑うと呟いた。
「っは!馬鹿じゃねぇの。ボスの座狙ってたら普通集会にも出ねぇだろ」
それはごくあっさりとした回答だった。
でもアルバはそれだけでは納得できなかった。
「だったらっ!どうして話を聞かなかったんだよ!ボスの言う事は聞かないとだめだろ!」
再び、くつろぎ始め毛づくろいを始めた赤い猫にアルバは食ってかかる。
「あー…。お子様にはちょっと複雑なことがあるから聞かなくてもいい例外があったりすんの」
「オレを子供呼ばわりすんじゃねえよ!」
余裕ぶった赤い猫にイラついたアルバは赤い猫の尊大な態度にもイラつき、威嚇を始めた。
威嚇を受ければ相手猫も本気になるかもしれない、少し怖いがこれくらいしても…と思ったアルバがそれを後悔するのに
時間はかからなかった。
赤い猫はアルバの様子を見るなり毛づくろいを止めて立ち上がった。
「おい…、調子のんなよ、お子様」
「な…なんだよ!オレは子供じゃないっ!」
「………はー…。ったくめんどくせぇガキだな」
「だからっ!子供呼ばわr…っ!」
それは一瞬の出来事だった。
赤い猫の姿が一瞬で消えた…ように見えた。
実際は、一瞬のうちで自分が頭を押さえつけられていた。
目の前にいたはずの赤い猫に…。
「ったく、ガキが粋がってんじゃねーよ。勝負にもならん勝負挑んでこれはねーよ」
勝負は一目でつくぐらいに決まっていた。
完全にアルバは、赤い猫に押さえつけられて動けなくなっていた。
「…っく!!は…なせっ!!!」
「先に喧嘩売ってきたのてめぇだろ。いやなら一撃でも反撃してみろ。そしたらガキ呼ばわりはやめてやんよ」
赤い猫の提案した簡単な答えに対し、反撃しようとアルバはもがくが、まったく動かない。
頭が上に動かないなら…と思ったアルバは一か八かのチャンスに出た。
押さえつける力に抗わず、抵抗をなくす。 そ
れに油断した赤い猫の力を逆に利用し、頭を梁と赤い猫の前足の間から抜く。
「うおっ!?…へぇ、やるじゃん」
赤い猫が尻尾を軽く立て、少し崩れた体制を整える。
一方、アルバはそのままわざと落ちかけた体制のまま、別の梁に跳び移り、そのまま柱上を登った。
その様子を見て赤い猫がにやりと笑う。
「知ってるか?馬鹿と煙は高いところが好きって言葉をな」
アルバはその言葉を聞き、軽くムッとしながらも次の行動をとる。
柱の陰に隠れ…そしてっ!
明るい満月をバックに、アルバは赤い猫の背後を狙い、跳びかかった。
赤い猫はそれを予知していたのか、後ろを振り向くとともにさっと避けた。
もちろん、アルバもそれを理解し、そのまま梁を通り越し、台…いや台の上にある飾り台の上へと落ちていった…。
それを見た赤い猫が、今までにない焦った声を上げた。
「おいっ!!そいつに触れるなっ!!」
「へ…、何…っ?」
言うが早いか台の上に前足が触れる。

その時だ。

飾り台にある一つの珠が月の光を浴びてか、さらに一層輝きを増した。
珠は一気に太陽のごとく強い光を放つ。
あまりの眩しさにアルバは瞳に鋭い痛みを感じた。
「ふぎゃっ!!!!」
そのまま着地できず、床に落ちていく感覚だけを残し…。


アルバは気を失った。



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