第1章-新顔-
アルバは赤い猫の後を追っていた。
かすかに残る匂いを頼りに、知らない町をずんずんと進む。
車通りの少なくなった駅のロータリー。
人通りが減って閑散とした商店街。
民家が並ぶ坂道を登り切り、広い公園にさしかかると、さすがのアルバもくたびれてきた。
「あいつ…、いったいどこへ行ったんだ?だいぶ遠くに来ちゃったし…俺、帰れるんだろうか」
公園の手すりに乗って、アルバは辺りを見渡した。
景色は絶景ともいえる場所で、民家が並ぶ姿を一望できた。
満月が民家の上に登るその姿は、見る者の心を感動させるものだったが、今のアルバには、それさえ感動させなかった。
集いに集まる猫の匂いがする時点で、ここは青月市の一部であることに間違いはないのだが…。
アルバには今、自分が家からどのあたりに自分がいるのか全く皆目がつかなかった。
赤い猫のことは今度にして帰ろうか、と思い始めた時だった。
「あーん?お前、今朝いたやつじゃねーのか?」
後ろから聞いたことのある声が聞こえた。
ふと後ろを振り向くと、そこには朝に見かけたマタタビ酔いの猫がいた。
ほかに見慣れない猫も複数いる。
「あぁ、なんだ。あんた達か」
アルバはそっけない態度で返し、そのまま公園から去ろうとした。
しかし、それをほかの猫たちは許さなかった。
目の前に立ちはだかる。
「何だよ…。そこ、邪魔なんだけど」
「つれないねー。せっかくここまで来たんだ。ちょっと遊ぼうとか考えないのか?」
ニヤニヤと笑みを浮かばせながらも、道を譲らないマタタビ猫にアルバは苛々しながらも、いい案を思いつく。
「そうだ、あんた達。赤い猫知らないか?」
アルバの質問を聞いた猫は、アルバの意外な言葉に驚いたのか目を丸くした…が、その後幾分見ない真面目な表情をした。
「赤いのってあいつか。あいつはやめとけ。俺らよりたちが悪い」
「それってどういう意味なんだ…っておぁっ!?」
アルバがさらに質問しようとするのを阻害するかのように、マタタビ猫がいきなりアルバに圧しかかった。
体格では圧倒的に向こうが上であることと、不意打ちであることが重なり、アルバはそのまま倒れ込んだ。
その様子を見て、周りの猫が囃し立てる。
「へへっ、見てるだけでも面白れーなぁ、そいつ」
「何すんだよ!やめろぉっ!!!」
必死で背中を押さえつける力から逃れようとするが、まったく動けない。
その間にもマタタビ猫はさらに全身の力をかけて背中を押してくる。
「口のきき方くらいは覚えておけよ。ガキが。でねぇと赤いのに会うが命日になるぜ」
マタタビ猫が全体重をかけてくる。
その体重を乗せる前足は、やがて首元にかかりアルバは息が詰まり始める。
周りの猫は以前より増してヒートアップしているようだ。
アルバは苦しさに耐えられなくなり…
ガブッ!!
「ニ"ャン!!」
とっさに手前に見えていたマタタビ猫のもう片方の前足に噛みついた。
マタタビ猫は急な痛みに驚き、身を翻した。
その合間を見計らってアルバは猛スピードで走りだした。
「くっそ!!待て!こらぁ!!!」
マタタビ猫は怒り狂い、周りの猫に構わずアルバを追いかけ始めた。
どれほど走っただろうか。
公園の木陰へと走り始め、アルバは必死に森の中を駆けた。
どこか建物の陰に隠れようと必死に走るなか、突如森の中の広い場所へと出た。
「ここは…?」
ふと見上げると、そこに建物があった。
過去に一度、家の写真で見たことがある鳥居もセットで…。
「神…社…?」
人の気もなさそうなぼろぼろの建物だったが、アルバは背後からかすかに猫の気配を感じ、なりふり構わず神社の中へと入った。
木でできた扉は朽ち、所々に穴があいている神社は簡単にアルバを迎え入れた。
アルバは、追いかけてくる者が神社の中に入っても、すぐにバレないよう柱を登った。
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