序章-赤い月の夜-
それは月が赤く輝く夜のこと。
土を踏む音が1つ、2つの影があった。
1つは人の影…、もう1つは小さき獣…猫の影だった。
「今日は、思ったより遅くなっちまったなぁ…」
人影は帰宅を急ぐように、小走り気味で歩いていた。
片手に暗闇を照らす灯りを持って…。
男が呟くように言った言葉に、猫は相槌を打つかのように、ニャオンと鳴く。
男は足元をついてくる連れをチラリと見ると、にへらと笑顔で返した。
それから、赤い月を見る。
「今日の月はえらく赤いなぁ…。なんか不気味だし早く帰るぜ」
男はやや歩を早め、猫もそんな男に遅れまいと足早に後を追う。
「すまんなぁ、遅くなって」
男は急ぎ足になりながらも、猫に謝った。猫は「ニャ…」と短く鳴く。
時々遅くなるのは、男がしている仕事のためだからと猫は知っていた。
たとえ、知っていなかったとしても、猫は主から片時も離れたことはなかった。
この時までは…。
+-+-+
赤い月が照らす暗闇の中、猫は一部始終を見た。
目の前で、灯りが地面に落ちたことまでの全てを…。
にゃあん…
猫の猫としての最期の声が響いた。
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