第三章-忘れられし神話-

そういえば…とレンが口元に手を当てて尋ねた。
「どうしてケアノスにはオレンゴの木がたくさんあるの?」
とぼとぼ歩く中、レンが先ほどと同じように尋ねる。
「どうしてって…それはあれだろ。土地の気候とかでなりやすいんじゃないのか?」
俺も知らないけど…と心の中でノウェは呟く。
「そうなの?オレンゴって標高高い山に樹があるイメージだったから不思議だなって」
ノウェは悩んだ。
「ケアノスへは行ったことないんだけど、標高低いのか?」
ノウェは後ろを歩くクロスに尋ねた。
質問を受けたクロスはがっくりと項垂れた。
「ノウェ、前に習わなかったかー」
「ぎくっ」
「ったく、俺様が懇切丁寧に色々教えてもノウェはすーぐこれなんだから」
はぁ~っと大きなため息をつく相棒にノウェは頬をポリポリ掻きながら横を見やる。
「し、仕方ないだろ。俺、地理苦手だし」
「へぇ、ノウェは地理が苦手なんだ」
エリナがクスクス笑いながらも、容赦なくツッコミを入れる。
「人には1つくらい苦手なものだってあるだろ。そういうエリナはどうなんだよ」
するとエリナはふふんと少し胸を張って自慢げに立った。
「私、こう見えて地理は得意なの。本を読むの好きだし!」
その得意げな様子にノウェは「地理が、ええー」と言いたげな様子でエリナを見る。
「じゃあ聞くけど、エリナ。ケアノスは標高どうなの?」
「たしかケアノスは低いはずよ。だいたい、高かったらここからでも山が見えるじゃない」
それを聞いてノウェは辺りを見渡し納得する。
たしかに、周りには森ぐらいしか見当たらず、あとは綺麗な青空が広がるのみ。
「あぁ、ほんとだ」
「ノウェ、周り見てないのね」
エリナが少し呆れ気味に言い、ノウェが「あ…」と一言漏らすと顔を赤く染めた。
「し、仕方ないだろ。道迷ったら困るし!」
「ノウェは地図とお友達だものね」
エリナの言葉にノウェは言葉に詰まる。たしかに迷わず進むことに必死になり、辺りをしっかり見ていなかったかもしれない。
その様子を見たレンが「まあまあ2人とも」と、宥めながら尋ねた。
「そんなわけだから、僕も少し気になってね。どうしてオレンゴが有名なんだろうね」
「どうしてだろうな。俺も気になってきた…」
ノウェも気になり始め、少し考えたりしたが、やはり理由が思いつかない。
「エリナ、何かそういうの知らない?」
「え?なんで私が?」
いきなり話を振られて悩むエリナも、理由を知らないらしい。
すると、それまで3人の様子を見ていたクロスがふっふっふと笑い出した。
「俺様、理由を知ってるぜ」
「ほんとか、クロス!ギャグとかダジャレとかじゃないよな」
「なんでノウェはそういう方向に話を持っていくの。さも俺様が寒いおやじギャグを言う人みたいに…ひどい」
「だってお前よく話を反らすじゃん」
「う…、ってそんな話は今置いといて。ケアノスにオレンゴがなる理由ね。あれ神様が影響してんの」
さらりと言うクロスに全員がキョトンとした。
「神様?」
ノウェが尋ねると、クロスはうんうんと頷く。
「その昔、神々が多くこの地にいた頃の話、氷の神と豊穣神とかがいてさ。
豊穣神は氷の神をずっと愛していたわけ。
氷の神は大のオレンゴ好きで、元々はこの地ではなくもっと北の地にいたんだけど、
訳あってこのケアノスの地を守る義務をある時受けてね。
オレンゴ好きなのに食べられないと嘆いて、この地を氷に包まれた地にしてしまったんよ。
それを見かねたケアノスの人々が、豊穣神にその事を伝えてオレンゴをなる地にしてほしいと言ったらしい。
豊穣神は作物をならすことには長けているし、氷の神が元気になるならと喜び勇んでこの地をオレンゴのなる地にしたってわけ。
こうして、ケアノスはオレンゴの地域となりましたとさ」
クロスはいつの間にか取り出したギターをかき鳴らしながら、吟遊詩人のように話した。
それをぽかーんと聞いていた3人のうち、ノウェがツッコミを入れた。
「え?それが理由?土地とか関係なしで神様そんなことしちゃっていいわけ」
「いいんでない?生態系崩さないようにしたみたいだし」
いいのかよ…とノウェは口ごもる。
一方エリナは目をキラキラさせてクロスに尋ねる。
「ねえねえ、クロス。その話の続き。どうなったの?私その話知らないから気になる!」
「へ?あぁ氷の神と豊穣神の話?」
「うんうん!」
目を輝かせて聞いてくるエリナに反し、少し困ったような顔を見せたクロスだったがあっさり答えた。
「その後ね豊穣神は氷の神にできたてオレンゴを持ってったんだけど、
そのためにあっさり土地をいじったことに氷の神が怒っちゃって…。『私のためだけに勝手に色々変えないの!』 ってね。
でもその後なんだかんだありつつも恋仲になったみたいだよ」
「へぇー、すごくいい話なのね」
「ほんとだねー。今となっては美談だねー」
クロスは遠い目をしながらハハハと乾いた笑いをする。
「会ったことがあるの?」
エリナが不思議に思い、尋ねる。
「え?いや、ないない。いや、なんていうの?神話を色々読んでたらいろんな解釈があって
今ではこうなってるからこうであったらいいなって俺様が勝手に思っただけー」
クロスがぶんぶん首と手を振って言う中、レンが神話かぁ…と呟く。
「僕の知らない神話もあるんだね」
「レンは神話に詳しいのか?」
レンの言葉を聞いたノウェがレンに尋いてみる。レンはその言葉に大きくうなずく。
「一応、神獣だからね。神々に仕える者は皆神話を覚え、それから今いる神のことを覚えていくものなんだよ」
でも今の話は知らなかったなぁ…とレンは言う。
「知らなくて当然さ。神も死んだりしていなくなると覚える必要がなくなるしな」
クロスがレンの頭をぽんぽんと撫でて言う。
「忘れ去られた神話…か。オレンゴの樹がケアノスになっているんだ。
神話自体伝えていくぐらいはできそうなのにな」
ノウェは、ふんといった様子でケアノスの載っている地図を見る。時期に町が見えてきそうだ。
「まあ、それは俺様達しだいだろうな。まあまあケアノスへ行って神話を思い出しながらオレンゴでも食べようじゃないか」
クロスはニッと笑うと全員の肩に手をまわしてギュッと包み込んだ。
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 第三章完
 

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