第四章-死者との狂想曲-

明るい緑に囲まれた町、ケアノスに一行がついたのは日が傾き色が変わる夕暮れ時。
周りのオレンゴの実は沈みゆく陽の光に似た橙色の輝きを見せる。
「うわぁー!本当にオレンゴがたくさんなってる!!」
レンが目を輝かせて辺りを見渡す。
それに釣られてノウェもきょろきょろ見渡すと風が髪を撫でた。
甘ったるすぎない、さわやかな香りが鼻腔を擽る。
「思っていた以上にオレンゴに包まれているんだな」
「ほんとね、本で読んだ以上の衝撃だわ!いい香り!」
エリナもレンと同じように辺りを見渡し、オレンゴの香りを堪能している。
そんな3人の様子をほほ笑みながら見ていたクロスは、しばし3人の満喫している様子を眺めていると手をパンパンと叩いた。
「さぁって、オレンゴの町に感動している所悪いけれど、もう夕方だ。 早い所買い出しをすませて、今日泊まる宿を捜し、明日早く出立できるようにしよう」
「明日早く出るの?僕もうちょっとゆっくりしたいな」
レンがキョトンとしたまま尋ねる。まだ今を楽しみたいようだ。
「あぁ、グランドウェイルはちょっと遠いからな。早いに越したことはい。それに…」
「それに…?」
続く言葉を止めたクロスの様子を見てエリナが問う。反面ノウェは黙ったままだ。
ほどなくしてエリナは問うんじゃなかったと後悔する。
「町もいいんだけどー、やっぱり王都のほうが可愛い女の子が多いと思うわけよ!」
グヘ、グヘヘと親父めいた笑い声を立てながらクロスがにやついているのを見てレンを除く2人が呆れる。
エリナは白い目で見やり、ノウェに至っては俯いて首を横に振る。
唯一レンが3人の様子を見て動じることなくマイペースに尋ねる。
「せんせー、オレンゴはおやつに入りますか?」
「はい、レン君。せんせーがその答えにお答えしましょう!おやつに入ります!」
ぬぁっはっはっはと笑うクロスと両手をあげてわーいと喜ぶレンの2人のマイペース差にエリナとノウェは軽くため息をついた。


この後、4人は2人ずつに分かれて片方は買い出しを、片方は宿を取りに別行動をする事となった。
買い出しへはノウェとレンが、宿を選ぶのはクロスとエリナが行くこととなった。
薬、携帯食、そしてレンが一番欲しがっていたオレンゴ大量に買い、
ノウェとレンはあとの2人と会う約束をしていた広場へと向かっていた。
ふんふんと歌う少し音程の外れたレンはとてつもなく嬉しそうだ。
両手にぎっしりと持った荷物を軽々しく持つレンの様子をほほ笑みながら見るノウェだったが、荷物の量を見て少しオレンゴを買いすぎたかなと悩む。
考えてみればレンはドラゴンであり、常人なら持てないほどの荷物の量なのだ。
いくら夕方の安売り時に買ったとはいえ、果物屋のおやじでさえ両手でなんとか持てるかどうかの量だったのだ。
「少し…、買いすぎたな」
ノウェが困り顔で呟くと、レンは「えー?」とにこやかにノウェの方を向いて笑顔を向けた。
「大丈夫だよ、ノウェ。僕これくらい余裕で食べることできるから!」
「はは、は…」
ノウェは笑いながらも、今後の食費を少し心配した。
その刹那
ドンという音がしてレンの体が大きく傾いた。
「おー?」
さしてそこまで驚くほどの様子もないレンに反して、ノウェは目の前のレン、いやレンの持つ袋からオレンゴがたくさん散る瞬間を
一秒一秒ゆっくりと見た。
それから大きな音を立ててオレンゴの実が零れ落ちるまで時間はかからなかった。
「レン、大丈夫か」
「ふぁああああ、ノウェ!ごめんなさい!オレンゴが、オレンゴがあああ」
レンは慌てふためきながらオレンゴの実を掻き集めようとする。
そのレンの目の前にスッと小さな影がかかった。
「ん?」
レンが頭を上げるとそこに、小さく幼い女の子が立ってこちらを見つめていた。
女の子はどこかのお金持ちの子のようにふんわりとした甘い雰囲気のドレスを身纏っているため、一目で町の子ではないことがわかる。
ノウェもすぐにレンの傍に駆け寄り、女の子の存在に気がつく。
「大じょう…ん?その子は?」
言うが早いか、女の子は後に来たノウェをじーっと見上げた。
「アリア」
女の子の小さな口が一言、はっきりと告げた。
「??。アリア、それが君のお名前かい?」
レンが女の子に尋ねると、女の子『アリア』はレンを再び見つめて、頷いた。
それから、転がるオレンゴの実を一つ手に取り、それをレンに渡す。
同時に、アリアのお腹から凄まじい音を立てる。
「今の音は…」
レンがアリアを見れば、アリアはレンを、いやレンに渡したオレンゴの実を見つめている。
「君、お腹が空いていたんだね。ねえノウェ。一つあげていいかな?」
「ノウェ?」
女の子がノウェの名前を呟き首を傾ける。 その様子を2人は知ることもなく、ノウェは「1つぐらい全然構わないぜ」とレンに告げながら転がったオレンゴを集めている。
「アリア、はいこれ」
レンはアリアの手にオレンゴの実を一つそっと渡してよこす。
アリアはそれをじーっと見つめていたが、それから目を離しレンを見るなり言った。
「ありがと」
「どういたしまして」
レンがお礼の返事を言う間にもアリアはたったったと足音を立てて町中へ消えていった。
「何だ?あの子」
ノウェは他に転がるオレンゴの実を袋に入れながら呟く。
「不思議な子だったね。それよりノウェ。ごめんね。こけちゃって」
「いや、いい。大体お前がこけたのはあの子がぶつかってきたんだしな。それより早く広場に行こうぜ」
ノウェは最後のオレンゴを拾うと袋の口を閉じ、レンはそれを今度こそ落とさないよう気をつけて荷物を抱えた。

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 第四章続く
 

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そのうち