第三章-忘れられし神話-
日が姿を見せるより早い刻。
朝露の匂いとひんやりと涼しい風がにノウェの頬を撫でる。
場所は、昨日と同じ宿屋のベッドの中で、ノウェは目を覚ました。
「ん…、クロス、寒いから窓閉めて…」
部屋の中にいるであろう相方に要望を言う。
しかし返事がない。
いつもなら愚痴の1つを言いながらも窓を閉めてくれるはずだが…。
そんな思いが次第に苛立ちに変わり、ノウェは嫌々ながらベッドから身を起こした。
「おい…クロス…ってあれ…?」
相方が眠っているであろうベッドは、もぬけの空だった。
(どこ行ったんだ、あいつは…)
普段なら外出時に、理由がナンパであっても何かしら理由をつけて出ていくはずのクロスがいないことに、
ノウェは少し不安になる。
とりあえず、外に出たかどうかは宿屋の主人に聞けばわかると思い、ノウェは身支度を整え始めた。
ノウェの武器である剣を腰に差した頃に、ノックもなく扉が開いた。
「クロス!!」
「え!!ノウェ?起きてたのか?」
驚いたのはノウェだけではなかったようだ。
クロスはノウェに呼ばれて目を丸くして驚いている。
「どこ行ってたんだよ!」
「えー…、んー…。……トイレ?」
クロスがノウェの視線から、目をそらすように呟いた。
その様子を見てノウェはさらに呆れる。第一トイレはこの部屋に1つあり、外まで出る必要などないのだ。
「あからさまな嘘をつくなよ。外で、何してたんだよ」
ノウェはもう一度訪ねた。
「えー…、じゃあナンパ…」
「お前なぁ…、こんなだだっ広い平原のどこで女見つけてナンパするんだよ」
容赦ないツッコミにクロスはたじろぐが、しばらくして手をポンと叩いた。
「でも俺様、頑張ればちょっと遠出ぐらいできるぜ」
「もういいって…。そこまでして話したくないなら今は聞かない。でもあんま勝手に行動するなよ」
ノウェは折角装備したばかりの剣を文句を言いながら再び降ろす。
クロスはそんなノウェのしぐさを見ながら、そっと扉を閉めた。


ゆっくりと日が高く昇り辺りが明るくなっていく。
ドアをノックする音と共に明るく元気な声が響く。
「おはよー!ノウェ!クロス!起きてる?ご飯食べに行こ!」
「あぁ、今行く」
ノウェはエリナの声に応え、今度こそ剣を腰に挿して旅じたくを終えたクロスと共に扉を出た。
「おはよ!朝ご飯できてるよ!パンをたくさん焼いてくれたみたい」
エリナはなんだかワクワクしたような様子だ。同じくにこにこしているレンが横にいたがふとレンがノウェに尋ねた。
「あれ?2人とも何かあったの?」
「え?何が?」
ノウェは咄嗟に返したが、レンは2人が獣としての直感か何か感じたようだ。
「なんだか2人とも不機嫌な顔をしているから、何かあったのかなって」
「あー…それな。クロスのやつが勝手に外出歩いたりしてたからさっき注意したんだよ」
その言葉を聞いてないのかクロスはまだ険しい顔をしている。
「クロス…?」
エリナがいつもならニヘラニヘラと謝るクロスが、険しい顔のままなことに気がつき声をかける。
「ん?あぁなーに?エリナちゃん」
「え?いいや私じゃなくてノウェが怒ってるのにクロスも難しい顔をしているから」
「んん?あぁノウェが怒ってる?」
やはりクロスはノウェの話を聞いていなかったようだ。
「もういい。さっさと朝食食べて旅の行き先決めよう」
ノウェは呆れ交じりに言うと、その場から逃げるように先立って広間へと向かっていった。
残された3人はそのノウェの背中を見る。
「クロス、何があったのかわからないけど後でちゃんとノウェに謝った方がいいよ」
エリナがそっと呟く。
「そーだな。それと俺らもさっさと行こうぜ。ノウェがもっと怒る」
「ははは…」
そうして、3人も急いで広間へと向かった。



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