第二章-神殿跡地-
夕食を終え、次の日の起床時間を決めた4人はそれぞれ2グループに部屋に分かれた。
ノウェとクロスのグループと、エリナとレンのグループだ。
「じゃあ、また明日ね!おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
奥側の部屋だったエリナとレンより先に、手前の部屋だったノウェ達が先に部屋へと入っていく。
閉じられた扉を静かに見つめていたエリナに、レンが問いかける。
「どうしたの?エリナ。何か気になることでも?」
レンはエリナより背が高い。
しかし、少し屈み顔を覗きこむようにしてエリナの様子をうかがう。
「うーん…部屋に入ってから話すわ」
「え?う…うん」
エリナはそっとレンの手を引いて、足早に部屋へと入った。
それから、エリナは自分用と決めたベッドに腰かけた。
レンもエリナを真似てベッドに座る。ややぎこちない動きだ。
「レンは…気にならない?」
「何が?」
枕を抱きかかえながら尋ねるエリナを見て、同じく枕を抱こうとしたレンはその手を止めた。
「あの2人。私ね、なんか普通の旅人じゃない気がするの!」
「そうなの?」
「そう!なんかどこかのお偉いさんっていうか…王族のような気がするの!」
「へぇー。王族かぁ。でもどうしてエリナはわかったの? 僕、てっきり王族って国の偉い人だから豪華な装備してるものだと思ってたよ」
レンの目は驚きと好奇に満ち溢れている。
「あー…まだ確証じゃないわ…。なんていうかそんな気がするってだけだから本当は違うかもしれないし…」
「気になるなら2人に聞いてみようよ」
レンが立ち上がる。どうやら直接聞きにいくようだ。
そんな扉へ向かうレンをエリナは慌てて止めた。
「ちょっと待って!2人は隠してるかもしれないから迂闊に聞くのはまずいわ!」
「え?そうなの?」
「そうよ!王族だと公言して旅しているならとっくに教えてくれてもおかしくないのに、さっき話した時も そんな雰囲気をクロスが出しかけただけで、全然話してくれそうな雰囲気じゃなかったじゃない」
レンはしばらく考えた。それからぅーんと唸って呟いた。
「クロスは王族じゃないと思うんだけどなぁ…」
「それは私もよ。クロスは王族とは半分以上思ってないわ」
「それじゃあ…ノウェが王族ってこと?」
レンが目を丸くして尋ねると、エリナは少し悩んでから「うん…」と頷いた。
「そっかぁ…。ノウェが王族…。エリナってすごいね。僕全然わからなかったよ」
「さっき王族がどうたら〜って話してたからそうなのかなって思ってたからなんだけどね。
だからまだ事実かどうかわからない」
「やっぱり僕聞いてくるよ?あ…やっぱりだめ?」
レンはうずうずしている。どうやら聞きたくてたまらないらしい。
しかし、エリナが首を横に振るのを見て、空気を読んだようだ。
「王族って知られるとややこしかったりするから、本人たちの口から聞くまではやめよう?
下手すれば、一緒に旅もできなくなるかもしれないし」
レンにとって、エリナの最後の一言は重要だったようだ。
それを聞くなり、そんなに大変なこと聞くところだったんだ!とさらに目を丸くして、扉にかけていた手を離した。
「じゃあ、本人たちから聞くまでのお楽しみ、だね」
「そうね。まだ旅は始まったばかりだからこの先に聞けるといいわね」
「うんうん!」
レンは嬉しそうに再びベッドに腰かけた。
「それじゃあ、今日はもう寝よっか。疲れたし」
エリナがそのままベッドに倒れ込むと、レンが腕を前に突き出し、大きく伸びをした。
それは人間の伸びとは違い、4つ足動物がするそれに似ていた。
「エリナ、僕は基本そんなに睡眠とらなくても大丈夫だからちゃんと番してるよ。安心してね」
「ふふっ、大丈夫。ここはちゃんと宿だから番しなくても安心よ。睡眠とった方がレンもさらに明日から
本領発揮できるだろうし、寝ましょ」
そのまま横になって毛布の中にスルスルと入っていくエリナを見て、レンも見よう見まねで真似をした。
毛布が変に引っ掛かる…。普段使わないから仕方ないか…とレンは思った。
「うん…じゃあ僕も寝よう。おやすみ」


そして…夜は明けた。


明るい朝日が窓から差し込む。
エリナとレンが身支度をして、部屋から出るとすでにノウェとクロスは昨日一緒にいた食卓にいた。
もうしっかり準備ができているようだ。
「おはよ!2人とも!早いのね!」
「今降りたとこさ、2人とも、おh…」
「エッリナちゃーん!レーン!おっはよー!!!」
クロスは2人を見るなりとても…とーっても明るい挨拶をした。
横にいるノウェは自分の声を阻害するクロスの大きな声に軽く苛立ちを覚えたようだ…。
それまで何もなかった穏やかな顔に青筋が立ったように見えた。
そして、それは言動にも現れる。
「………朝からうるさいな」
「俺様はノウェと違って低血圧じゃないからねー!!あっはっはー!いてぇ!!!」
スパーンといい音を立てて、ノウェがクロスの頭をはたいた。
「誰が低血圧だよ!ちゃんと起きただろ!それにだいたい、お前の方が今日は遅かったじゃないか!」
「まぁまぁ…。ノウェ、クロスおはよう」
レンがノウェを宥める。
2人のやり取りを見て、エリナは昨夜の予想はやっぱり違ってるのかもしれないと思った。

しっかりとした朝食、それから魔物退治の際の怪我対策に薬と宿屋の夫婦から色々もらったうえで、
4人は神殿跡地へと足を運びはじめた。
さすがに、夕方時と違い、朝は周りが明るく神殿の白き柱が輝いて見えた。
ただ…忘れ去られたかのように風化しているのは否めなかった。
「手入れすればもっと綺麗な神殿だろうにな…」
ノウェは神殿の入り口の前に立ち、朽ちつつある屋根に飾られている太陽神の文様を眺めながら呟いた。
「まーあれだ。信仰心が最近薄れているからな。他にも色々理由はあるだろうけどな」
クロスが周りの石柱を観察しながらノウェに返事をする。
「他の理由ってたとえば?」
石柱の間から見える大海原を見ながらエリナがクロスに問う。
海は青く輝き、下では波打つ音が響くが何かしら物悲しくも聞こえる。
そんなことはお構いなしにクロスは淡々と石柱に刻まれた文字などを観察し、終えたのか立ちあがって
エリナの問いに答えた。
「太陽神自体が不在とかかなぁ…」
「え、太陽神って存在するの!?」
「まあ最近の人はそういう反応するわな。それぐらいに神への信仰心ってのがないだけかもしれないけど」
クロスが苦笑する。一方エリナはクロスがそんな神を信仰するような人間だと知らなかったこともあり驚いてばかりいた。
そんなエリナに教えるかのようにレンがささやく。
「ヒトの間では忘れられてるのかもしれないけど、僕みたいな魔獣の間では、神様って大切な存在なんだよ」
「へぇ〜、そうなんだ!あ、じゃあレンだったらここの太陽神がどうなったとかわかるんじゃない?」
するとレンは首を横にぶんぶんと振った。
「僕はここら辺のことは知らないから…。どうなってるのかまではわからないよ」
「あらら、残念。でも本当に神様っているのね」
エリナはノウェが眺めていた神殿屋根の文様を一緒に眺めた。
ノウェは文様をじっと見つめていたが、首をかしげた。
「なあ、ここの神殿って祭壇とか祈り場とかないのか?」
たしかに一見、建物の中にありそうなものがここの神殿には一切ない。
いや、それどころか神殿でさえ老朽化しすぎていて、屋根が半分以上崩れているのだ。
「太陽神祀ってるから青空教室みたいになってるのかもね」
「えー…それはいい加減すぎるだろう…。なんか隠れたところに入り口ないか見てくるよ」
ノウェが呆れながらも、神殿周りの倒れた柱などを調べ始めた。
エリナは、そんなノウェの様子をまじまじ見ていたが、飽きたのか近くの柱にもたれかかった。
その時だった。
ず…ずず…ず……という音が響きわたり、地面がぐらぐらと動き始めた。
「な…何だ?」
いきなりのことに中腰だったノウェはバランスを崩し、尻もちをつく。
それとは逆にまったくバランスを崩さないクロスが「あれまー!」と素っ頓狂な声を上げる。
「仕掛けをエリナちゃんが解いちゃった…」
「え!?私??何もしてないわ!」 揺れたことで崩れた体勢を戻しながらエリナは呟く。それを同じく横で体勢を整えたレンがぼーっとしながら答える。
「たぶん…その柱じゃないかな…」
クロスはうんうんと頷いた。
「おい、なんか地下道みたいなのが現れたぞ」
3人の様子はお構いなしで、ノウェが神殿入り口で開いた地下通路らしき穴を覗いた。
同じくしてクロスもじーっと地下通路を観察した。
「階段もしっかりできているしこりゃ隠し通路だなぁ…。んー…何もないし進もうか」
「閉まったりしないか?」何か仕掛けに引っ掛かって閉じてしまったりでもしたら…出られなくて大変なんじゃ…」
ノウェはそれを危惧した。
しかしそんなこともお構いなしに、エリナがスッと地下通路に向かいながら言った。
「そうなったら、出口を魔法なりで破壊して出ましょ」
「豪快だな、エリナちゃんは…」
さすがのクロスも引きつったが、まあそれもそうかと苦笑交じりに地下通路に向かう。
「朽ちているとはいえ大切な神殿だから、仕掛けが動いたりしませんように」
とノウェはいるのかさえわからない太陽神に祈り進み始めた。
「あはー、神殿の中に入れるって楽しみだなぁ…あ!いざってなったら僕がブレスでどうにかする…ってみんな待ってよぉ!」
始めての神殿入りに浮かれ気味で置いてけぼり気味でもあったレンは、急いで3人の後を追った。




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