第二章-神殿跡地-
ノウェ達は、老人に案内された部屋に二手に分かれて入った。
中はそれほど広くはなかったものの、旅で寝泊まりするには充分な広さだった。
扉を閉めた後、ノウェは剣を下ろすと、今晩の自分用と決めたベッドに腰掛け、大きく伸びをした。
一方、クロスはそんな疲れた様子のノウェを見て、にへらと笑う。
「ははっ、疲れたかノウェ」
「んー…はぁぁ。疲れた。クロスはいつも元気だよな」
ノウェはグーッと伸ばした背をそのままベッドに預けるようにして倒れ込んだ。
そんなノウェの様子を見つつ、クロスも自身のベッドに腰掛ける。
「俺様はいつも余力ある状態で保ってるからねー」
へっへっへと笑うクロスにノウェはそのままの体勢で顔だけクロスの方を向いてニッと笑いかける。
「このサボりめ!」
「うぇー、俺様サボってるわけじゃないよー」
クロスがおどける。それも予想していたのかさらにクスッと笑うとノウェはそのまま天井を見上げて呟いた。
「わかってるよ。お前、普段から凄いもんな」
そんなノウェの様子を見て、クロスも静かにほほ笑んだ。


それから数十分後、夕食の知らせでノウェ達はエリナ達と再会した。
夕食を取りながら、一行は明日のスケジュールを立てていた。
すると、話を聞いていた老人が少し心配そうな顔で一行を見た。
それに気がついたのはレンだった。
「どうしたんですか?何か…?」
「いやぁ…、あなた達は明日太陽神殿跡に行くんですよね」
「…?はい、そうですが…何かあるんですか?」
老人は逡巡するかのように目を閉じて唸ったが、再び目をそっと開いて静かに言う。
「いえ、ここ最近のことなんですが神殿を訪れた旅人さんがモンスターに襲われたとかいう話をちょくちょく
聞くようになったもので…」
エリナがそこで首をかしげる。
「神殿だったとはいえもう跡地だからモンスターの1匹や2匹はいそうだけど…最近なのかしら…?」
老人はエリナの問いに首を横に振った。
「いえ、昔から虫型のものはいるんですよ。でもそいつらはおとなしいくてね…」
すると、老人の夫人も新たに手料理を持ってきながら続いた。
「怪我した旅人さんが言うには、獣のようなモンスターにやられたと…。怪我も爪でやられたような痕があってね」
その凄まじさを思い出したのか、夫人は身震いをした。
老人は、怖がる夫人を宥めるように背をさするとノウェ達に告げる。
「一応、今のところ死者は出てないのですが、もし行くならしっかりした装備をしたほうがいいですよ。なんなら あとで薬も少しですがお渡ししましょう」
「ありがとうございます」
ノウェは老人の心遣いに感謝し、横をちらりと見た。
クロスは、口元に手をやったまましばらく考え込んでいた。
「どうかしたのか?」
ノウェは不意に気になってクロスに尋ねた。それに対しクロスはしばらく、んー。と唸っていたが口を開いた。
「いやぁ…モンスターってどんな奴なんだろうなって考えてただけー。もしかして昼間に襲ってきた奴らかなーってな」
まあ違うかもなーはっはっはーとクロスはいつものように明るくふるまう。
が、クロスのその明るく大きめに発言した言葉を聞いて老人が少し驚いたように目を丸くした。
「あなた達は、モンスターに会ったんですか!」
老人の声がかすかに震えているようだった。
「ここより少し遠いけど、草原で珍しいのにはあったかな…。ネズミ系だけどね」
レンが呟くと、老人がうろたえた。
「なんということだ…。話に聞いたものにネズミのようなモンスターがいるというのもあるんです。まさか神殿以外にも出てきているとは…」
「どうしましょう…、町へ買い出しに行くのに馬を使うとはいえ襲われたらどうしましょう…」
モンスターの意外な出現を聞いて老夫婦は怯えている。
それを見たノウェはクロスにそっと耳打ちした。
「なぁ、ネズミってどうやったら全部退治できるんだ?」
「んー、そりゃあ奴らの食料を根絶させるか天敵を放てば一発だけど…、あいつら食料と天敵が特殊だからなぁ」
クロスが腕を組んでうーんと悩む。
根絶させる方法を少しでも知りたいノウェは、「何勿体ぶってるんだよ」と呟いた。
するとクロスの代わりにエリナがノウェに教え始めた。
「あのね、ノウェ。クロスは勿体ぶってるんじゃなくてわからないんだと思うわ。だってあのモンスター、ここらじゃ珍しいんでしょ」
「あ……」
ノウェはエリナの言葉で、魔獣と遭遇した時のクロスやレンの呟いたことを思い出した。
たしか、魔獣は闇属性の生き物でこの辺りでは生息しないはずのモンスターだったと…。
「原因がわからないのか…」
「そーゆーわけ。まー、あれだ。拡大してるあたり何かしら生きる術をあいつらは持ってるようだし、
何より被害が出てるなら駆除しないといけないから、明日にでも神殿調べながら対策考えようや」
クロスが今は考えたってしゃーないわなといったような態度で再び晩御飯に手をつけ始めた。
それを聞いていた老夫婦は、駆除してもらえそうな雰囲気だと思ったのか少しほっとしつつもノウェ達に相談を始めた。
「それじゃあ、あなた達にモンスターの発生原因を調べていただいてもよろしいですか」
「え、原因はもちろん調べるけど駆除までしなくていいの?」
ノウェがそこで首をかしげると、老人が驚いた。
「いえいえ、駆除は王国に報告してしてもらおうかと。もちろんしていただいた方が嬉しいですが、
そこまで旅人さん方にさせては申し訳ないです」
「そうなのか?」
ノウェが悩むと、そこをクロスが肉料理を持っていた手を下ろし、別の手でぶんぶんと振った。
「あー、気にしなくても駆除までやるから大丈夫。報告書も一応確認のために見せるけど、なにぶん
お二人でここに暮してたら大変だろうし、俺らが代わりにそのまま王国まで運んでいくよ」
「ほ…本当ですか!!あぁぁ、ありがたいです…本当になんて言えばいいのか」
老夫婦がほっと胸をなでおろす。
それを全部聞いていたエリナがふーんといった感じで終始見ていた。
「エリナ、どうしたの?」
レンが手を休めているエリナの手元の料理をちらりと見ながら尋ねる。
「ううん、なんかクロスが王国も行くみたいなこと言ってるからちょっと気になっただけ」
「へぇー。王国かぁ!僕行ったことないからちょっと気になるなぁ!楽しみ!」
エリナはそんな喜ぶレンを見て笑いながらも、クロスとノウェを静かに見た。





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そのうち