序章-誕生と崩壊-

東からの風が花片と共にディアトラ大陸のフィアレスティス王国に春を告げる。

広大な草原はその風に身をゆだね、見る者に、その風の心地よさを感じさせる。


フィアレスティス国王、レイオルはそんな穏やかな自然を窓から見ながら何かを案じていた。
「陛下、恐れながら、手が止まっていますよ」
言ったのは宰相のイータ。若き国王を個々まで支援してきた実力のあるできた従者の一人だ。
「あ。仕事に集中しようと思うけど、どうも気になってしまって…」
と苦笑するレイオルは未だ25才という若者。
イータに注意され手元にある書に印を押す仕事を再び始めるがやはり何か気になるのか窓の先を見つめる。
「やれやれ、陛下!いいかげん…」
「あーーーわかった。ごめんなさい、ちゃんとやります」
「わかればいいんです。そして、私に丁寧語はやめてください。王としての自覚、持ってください」
「はいはい、わかったわかった」
仕方ないかとため息をつくレイオルにイータは何が仕方ないんですか!と少々怒る。
だが、そんな二人の元に一人のメイドが走ってきた。
そのメイドを見るなりレイオルは椅子からすぐ立ち上がる。
「おめでとうございます、陛下。男の御子様です!母子ともに容態は良好とのことでございます」
「本当か!!今すぐ・・・あー・・・イータ、ちょっと見てきていいかな」
喜ぶレイオルの顔を見てイータは断ることはせず、こくりと頷いた。
「いいですよ、このまま続けられても仕事に手が着かないでしょうし…。残りの分は私がしましょう」
小言を言いつつもイータも顔は優しく微笑んでいた。
それを見てレイオルはニッと子供じみた笑顔を見せて執務室を出て行った。

皇太子が生まれたこの日、フィアレスティス王国は国を挙げ、夕方から多くの町で王子誕生の祭りが開かれた。




それから1年後の同じ日の夜…。


皇太子殿下の誕生から1年が経った祝いの日。
フィアレスティス城下町では、春の花弁を散らすほどの祭りがおこなわれていた日。
フィアレスティス領の町の一つラヴィラスにて、赤い一筋の光が天上貫く様に飛んだ。
赤い光は刹那の出来事。
自身を中心に爆風を起こし、町を粉塵と化し、生ける者に絶望の宴を催させた。
その中で唯一、宴を傍観している男がいた。
男は光によって奏でられる阿鼻叫喚を静かな曲を聴いているかのように目を閉じ耳をすませて聞いていた。
その目を微かに開いた瞬間、赤い光は巨大化し、町一体に広い衝撃波が広がった。


町は人々の絶叫ごと光に包まれ滅ぼされた。


男は銀糸のような長い前髪を掻き上げると崩壊したラヴィラスを一瞥した。
「これはまだ些細な出来事にすぎないよ。セラティ=ラヘル…、君には今宵、私が興じる宴を捧げよう」
男は吹き荒れる風と飛び交う火の粉の散る壊れた町を歩きながら呟く。
ふと、赤子の泣く声が微かに聞こえた。
男は少し驚きつつも赤子の泣き声の下に歩みだす。
場所は気づいた場所から近く、無傷の赤子がゆりかごの中でで泣いていた。
男はその赤子をしばらく見ていたが、何かを見つけたのだろうか。
口元に笑みを浮かばせて無造作に赤子を拾うと、赤子の額に手をかざし眠らせ、広場だった廃墟まで歩き出した。
広場には、焼け崩れてはいたものの、フィアレスティスの領土となった証としての設立記念碑が存在していた。
男はその記念碑に魔法でこう記した。



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時は来たれり。
我は新世界より来訪せし者なり
「零の輝石」を我に差し出したまえ
永遠に悲しみの来ない地を約束しよう

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男は文字を再度確認すると、吹き荒れる猛火の混ざる風を愛で、混乱に叫ぶ人々の叫喚の渦の中を平然と歩いた。
赤子を連れて…



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